無線ネットワーキング

研究背景

 近年,高性能携帯端末の普及に伴い,LTEやWi-Fi等の無線ネットワークからのインターネット接続が急速に広がっている.総務省情報通信白書によれば,モバイルトラヒックは年間約2倍のペースで増加しており,その傾向はさらに強まっている.その他、2020年頃には7兆台の無線機器が70億人の生活を支える時代、つまり一人あたり1000台の超多端末モバイル時代が来るとの予想などが報告されている。
 このような爆発的なモバイルトラヒックの増大に対して,電波を有効活用する無線ネットワーク技術の研究開発が重要な課題である.
 無線ネットワーク技術は、電磁波の物理的な性質を駆使して大容量化を達成する物理層技術、無線端末を使って人々に便利さを提供する応用層(アプリケーション層)、そして、物理層と応用層を接続する中間層(メディアアクセス副層、ネットワーク層、トランスポート層等)からなる。
 本研究室では、物理層のポテンシャルを応用層に効果的に伝える中間層の技術を研究開発している。特に、図1に示す新たな物理層技術(L1)を駆使した第2層(L2)、第3層(L3)、第4層(L4)を研究している。

新たな物理層技術
図1 新たな物理層技術

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研究内容

大きく分けて以下の2つを研究している。

  1. 1)無線全二重通信を有効利用するメディアアクセス制御
     メディアアクセス制御とは、複数の端末(例えば携帯電話)が単一の資源(例えば電波の周波数帯域)を共用する時に、どの端末がどのタイミングで電波を送信するかを決定する制御である。同時に複数の端末が信号を送信すると受信側ではどの端末が何を送信しているか判別できなくなる。これを無線ネットワークの世界では衝突と呼んでいる。衝突が起きると再度送信する必要があるなど効率が悪化するので、これを避けるように交通整理するのがメディアアクセス制御である。(人間の生活に例えるなら、会議室に複数の人がいて同時に話をすると誰が何を言っているかわからない。これを避ける制御方式の一つが司会者を設けることである。)
     一方、一般に無線機は、基本的に電波を送信しているときには受信ができず、受信しているときには送信ができない。つまり送受信を同時にはできない。この理由は、有線に比べて無線の電波伝搬の減衰が激しいため(送信電波の10の10乗分の1程度しか受信できない)、自分の信号が大きすぎて相手の信号を受信できないからである。送信と受信を交互に行う信号の送受信方式を半二重と呼んでいる。これに対し、近年、ディジタル信号処理などの進展により、自分の送信信号をキャンセルし、送信と受信を同時に行えるような方法が物理層技術として開発されてきた。これを全二重通信と呼ぶ(図2)。(人に例えて簡単に言えば、聞きながら別のことを話せるということだ。)
     物理層が、全二重通信を実現できても、うまく交通整理をしないと効率が上がらない。本研究では、送信と受信をうまく組み合わせる全二重メディアアクセス制御や、全端末が全二重通信できる場合だけでなく一部の端末が半二重通信しかできない場合でも対応できる混在型メディアアクセス制御などを研究している(図3)。

    無線全二重通信
    図2 無線全二重通信
    無線全二重通信メディアアクセス制御
    図3 無線全二重通信 メディアアクセス制御
  2. 2)逐次干渉除去と重畳符号化を有効利用するメディアアクセス制御
     通常、同時に受信した複数の信号は衝突となり、両方とも受信できない。これに対し、衝突した信号からそれぞれを取り出す技術の一つが、ここで言う逐次干渉除去である。これを用いると複数端末からの信号を同時に受信できる。(人に例えれば、聖徳太子は10人の言葉を同時に聞けた?)図4に示すように、複数の信号を受信した際に受信側が信号処理を駆使して分離する。まず、近傍の端末からの信号を通常の復号で取り出す。受信信号からこれを引き算し、遠方の信号を取り出す。
     また、重畳符号化とは、同時に複数の信号を送信する技術である。図5のように、遠方端末と近傍端末に対して、別々の情報を同時に送信する。近傍端末では、逐次干渉除去を用いている。
     これらの物理層技術は、これだけでは応用層の要求に応えられない。多くの端末がこれらの技術を使おうとしても、交通整理が必要であるからである。
     本研究では、重畳符号化や逐次干渉除去が同時に到達する信号の振幅に差が必要なことから,中継器を利用することにより,アクセスポイントが宛先端末まで直接通信するよりも高速に通信できる方式を研究開発している。

    逐次干渉キャンセラ
    図4 逐次干渉キャンセラ
    重畳符号化
    図5 重畳符号化
  3. 3)実機実装
     理論的な研究だけでなく、実機を用いた実験も行っている。特定実験試験局免許などによって実験を進めている。

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