日本学術振興会
「光ネットワークシステム技術第171委員会」
第3回研究会議事録

1. 日時 : 平成13年6月8日(金)  13:30〜16:00
2. 場所 :  弘済会館 9階 菊の間

3. 参加者(敬称略)
小関 健、河西宏之、村上孝三、藤原雅彦、盛岡敏夫、井筒雅之、中野義昭、野村一郎、小牧省三、矢嶋弘義、今村元規、宮城幸一郎、大濱雅幸、田中英明、渡邊明正、 大島 茂、笠 史郎、浅井孝弘、持田侑宏、浅野弘明、本島邦明、林 敏彦(他)

4. 配布資料
資料1 光ネットワークシステム技術第171委員会第3回研究会資料
資料2 光ネットワークシステム技術第171委員会第2回研究会議事録

5. 議事
(1) 「ディジタル大陸への大移動」(大阪大学大学院国際公共政策研究科 林 敏彦 教授)

(講演要旨)
  • e社会は、ディジタル、サイバー、ネットワークがキーワード。「サイバースペース」の生みの親は小説家のウイリアム・ギブソン。
  • ディジタルネットワークはディジタル革命により確実に進行し、ITに支えられニューエコノミーを創造し、通信と放送の融合を促進する。2003年には地上波ディジタル放送も開始する。ディジタル大陸には、電子取引、電子マネー、電子政府、電脳大学、遠隔地医療、テレワークなどが待ち構えており、現在、ディジタル大陸への人類の大移動が起きつつある。
  • 電話網からコンピュータネットワークへの変革をもたらしたインターネットはB2C、B2B、C2Cなどの電子商取引を加速し、シュアティ社の認証ビジネス、グヌーテラのファイル交換ビジネスなどの新規ビジネスを生み出した。シュアティ社の場合、誰がシュアティを認証するかという問題は残る。
  • ネットワーク社会においてデファクトスタンダードの考え方は大事で、味方が多ければ勝ちとなる。デファクトスタンダードの例として、VHS vs ベータのビデオテープ、マイクロソフトがある。ネットワーク社会の特徴として「Napster」のコピーフリー性はディジタルの本来の姿だが、コンテンツクリエータにいかに報いるかという問題がある。
  • 情報セキュリティとして暗号技術は重要。情報が漏れれば個人でも水爆を落とすことができる。
  • IT革命においては「歴史上の他の革命と同様に、権力および所有権の大幅な移動が引き起こされる」という認識が重要。
  • インターネットはディジタル大陸の基本インフラとして定着し、次世代インフラはインターネットを土台に築かれる。インターネットはグーテンベルグの印刷技術と同様、不可逆的変化をもたらす。
  • ディジタル社会では、機会均等が保証されなければならないが、全員が強者になる必要はない。しかしディジタルデバイドによって、新たな南北問題が生じる可能性がある。
(質疑、コメント)

(Q) セキュリティの問題:企業はファイアウォールが必要だが、大学ではむしろ情報を自由にやりとりする通通のネットワークでもいいのではないか?
(A) NW公衆衛生の立場からは予防接種は必要。また、「著作権は必要悪」は経済学者の見解だが、活性化が促進される。
(Q) フリーのLinuxの評価が高まっている。これからネットワーク社会のビジネスモデルは「早い」、「安い」、「品質がいい」かと思うが、この辺はどうか?
(A) 「ただ乗り」を抑制するしくみも必要。所有権を確定して、市場に任せない方がうまくいく場合もある。
(2) 「持続可能な社会システムの実現に向けて」(東京工科大学 河西 宏之 教授)

(講演要旨)
  • 「持続可能な社会システム」を推進するために、雇用、教育、医療分野へITを適用し、社会基盤を整備することが重要。
  • 雇用システムは情報通信技術の進歩によって大きく変化しており、(1)臨時雇用者の増加、(2)新規の雇用は小規模会社、(3)テレコミューティングの増加、(4)ドリームチームの増加という4つのトレンドがある。
  • フルタイムの雇用者は高技術を有する“コア”の人達だけになり、21世紀の早い段階に50%が臨時雇用者になるとの予測もある。在宅勤務は米国の場合、環境対策問題(車通勤)から発生した。日本のテレコミューティングはまだ少なく、1996年時点で約80万人、2001年に約200万人と推定されている。仕事とは、“何をするか”であって、“どこに働きにいくか”ではなくなる。
  • ドリームチームは、「ある目的のために異なる機能や技術、行動規範を持ったチームを臨時的に作ってプロジェクトを推進し、目的を達成したらそれで終了」という組織。 米国はIT教育先進国であり、MIT、スタンフォード大、UCバークレー校、カーネギーメロン大などの主要大学は遠隔教育を積極的に推進している(第3回研究会資料参照)。その理由の第一は、大学経営であり、世界中から優秀な学生を集め、学生数を増やし経営基盤を強化する。また、新技術の獲得を目的にした社会人の再教育は大学にとって大きなビジネスチャンスであり(MITによれば社会人教育は1500億ドルの市場)、遠隔教育はこの場を提供する。
  • MITでは、2000年6月に遠隔教育に関する学内特別組織を発足。ケンブリッジ大とシンガポール大と提携して遠隔教育が実施されている。2001年9月よりインターネットを通じて授業内容(講義ノート、テキストリスト、課題など)が公開される予定。2年間の試験期間で、対象を500コースに拡大する。
  • スタンフォード大では、日本の通信教育部に相当する「生涯教育センタ」が膨大な授業ビデオを蓄積、1969年以来、工学部の授業を学内外にインターネット、放送、ビデオなどで提供している。2000年度には、放送、インターネット用に約200科目を提供。1997年に設立された学習研究所では、Distributed Learning、Collaborative Learning、Personalized Learningの教育方法を開発している。京都に日本センタがある。
  • 医療におけるITの貢献できる分野は多い。生涯医療システム(生涯利用可能:電子カルテはその一歩)、遠隔診断・遠隔治療・遠隔手術などの遠隔医療システム(平等な医療関係の実現)、遺伝子検査システム ・遺伝子治療システム(オーダメード医療、予防医療の実現)、誤診をなくす診断システム(重複検査の防止)などがある。
(質疑、コメント)

(C) そろそろIT技術者が社会的問題に関わる時期にきている。
(Q) メディアの問題もある。
(A) 記者のレベルは落ちてきている。メディアは大陸移動の仲介の役割を果たす。ディジタル大陸は実大陸の上に覆い被さっているが、オリジナルな文化も重要。
(Q) 遠隔教育の考え方は?
(A) できるだけLiveの教育に近づけるような努力が行われている。
(A) テレワークになって初めて可能になる仕事を見つけるのが重要。遠隔教育で学習の横の連携も必要。文部省は遠隔教育にまだ本腰ではない。
(Q) 日本の遠隔教育の取り組みは?
(A) まだ立ち上がったばかりであり今後の重要課題である。
(3) 「フォトニック結晶構造ファイバ」(NTT未来ねっと研究所 久保田 寛和 氏)

(講演要旨)
  • 通常、フォトニック結晶とはバンドギャップを利用したものを指すが、ファイバにおいてはバンドギャップを利用していないものも含めてフォトニック結晶ファイバ(PCF)と呼んでいる。その断面形状は石英ガラスの細管に多数の空孔が並んだものである。
  • フォトニック結晶ファイバは光の閉じこめ方法から(1)フォトニックバンド構造を利用したもの(Photonic Bandgap Fiber, PBFとも呼ぶ)、(2)フォトニック結晶構造から生じる有効屈折率差を利用したもの、(3)通常の光ファイバに穴をあけたもの(通常のPCFとは異なるため、HALF, Grapefruit Fiberなどと名前を付けて呼んでいる)に大別できる。
  • (2)の構造のPCFは、コアとなる中心部にガラスが存在し、空孔がある周辺の平均屈折率に比べて中心部の屈折率が高いことにより光を導波する。周辺部の穴の大きさおよび間隔を変えることで、さまざまな特性の光ファイバを作成することができる。たとえば、コア径が1ミクロン以下のファイバでは光の閉じこめが強いため強い非線形光学効果を発生させることができる。また、群速度分散の値が波長1.5 μmにおいて±100ps/km/nm以上のものを作成することも可能であり、逆に波長1〜1.5μmの範囲にわたって分散の小さいファイバを作成することもできる。また、強導波であるため曲げに強く、直径3mmに曲げても損失の増加のないファイバを作成することもできる。
  • これまでいくつかの機関がPCFの作製を行っているが、普及の妨げとなっていたのは長さと伝送損失である。すなわち損失は典型的には数十dB/kmという大きな値であった。CLEO '01のPDにおいて、波長1.5 μmにおいて3.2 dB/km、0.85 μmにおいて7.1 dB/kmという実用的な損失を持つPCFが報告された。また、ゼロ分散波長が800 nm帯にあることから、800 nm帯におけるピコ秒パルスを2 km伝搬させることにも成功している。ただし800 nm帯における分散スロープは大きいためパルスがひずんでいる。
  • 今回の損失の低減は構造によるものではなく、不純物の混入を防いだことが影響していると考えられる。
  • 今年のCLEO/QELS '01では(2)の構造のものに関して3件のPDがあり、1件が上記の低損失PCFである。他は1件がコアにYbを添加した高効率のファイバ増幅器で、かつ波長1 μm帯で異常分散であることからソリトンの自己周波数シフトを利用して波長可変光源、もう1件はコア径が1μmのPCFを用いたスーパーコンティニュウム光(白色光)の発生で、ゼロ分散波長が近赤外にあることから短波長を中心として効率のよい発生が報告された。
  • フォトニック結晶ファイバは通常の光ファイバでは得られない特性を持たせることができるため、今後の応用分野の拡大を期待したい。
(質疑、コメント)

(Q) ロスはどこまで下がるのか?
(A) さらに半分位(現在は1dB/km@1.55μm程度)
(Q) 平面、立体のフォトニック結晶との棲み分けは?
(A) 通常のフォトニック結晶は光回路の小型化などを目指しているが、フォトニック結晶ファイバは機能性素子や伝送路(長さを要求される)などの用途が考えられる。
(Q) 空孔のフォトニック結晶ファイバの製造技術は?
(A) 穴の配列をきれいに揃える必要があると考えられており、まだ困難が多く有る。低温で線引きするなどの方法が考えられる。
(4) 事務連絡
  • 秋頃に未来開拓事業「ホロニック情報ネットワークの研究」の発表会を行う予定。
  • 資料2の第2回研究会議事録を確認。
  • 10月12日(金)に第4回委員会を行う。