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開会挨拶(高知工科大学 寺田 浩詔 副学長)
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(1) |
「グローバル戦略と大学の挑戦」(古河電気工業(株) 大久保 勝彦 専務取締役)
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(講演要旨)
1. |
これからの光通信ネットワーク
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ブロードバンド時代に向けて光通信にとって重要な事項は、
- IP(Internet Protocol) over DWDM
- Photonic Network
である。これらを発展させる研究開発が重要である。
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2. |
これからの光ファイバー
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10年少し前までは、
光ファイバーの損失をいかに低減させるかに研究開発のポイントがあり、
1988年に1.5μm帯ゼロ分散シフトファイバーが開発、導入された。
この開発をもって我が国の光ファイバーの研究開発は終わってしまったといってよい。
しかし、1990年代半ば以降、WDM方式の開発・導入が進み、
混変調問題から1.5μm帯ゼロ分散シフトファイバーは望ましくないということになってきた。
現在では、ディスパーションのコントロールをいかに行うのかが、
光ファイバーの研究開発対象となっている。
研究開発を早い時期に終わってしまったことの問題点は特許を外国に押さえられてしまうということである。
現状、話題になっている光ファイバーは以下のとおりである。
- Transmission Fiber:single mode(SM)、Premium
- Specialty Fiber:dispersion compensation、polarization maintaining(PANDA)、erbium doped、fiber Bragg grating
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3. |
世界の光ファイバー勢力圏
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世界の光ファイバーの市場占有率は以下のとおりである。
・コーニング: | 30% |
・ルーセント:(旧AT&T、Bell) | 19% |
・アルカテル: | 10% |
・日本の3社(古河、住友、フジクラ): | 3社とも6〜7% |
日本の会社は、輸出しようとするとIP(International Property)問題に突き当たり、いまのままで市場占有率をあげることは難しい。
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4. |
IT不況とLucentのつまずき
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昨年からルーセントの業績が思わしくないという噂があり、
アルカテルによる買収も話題となった。
現状、経営建直しのためにPower部門の売却、Avayaの分離、Agereの分離、OFS(
光ファイバ部門)の売却などを進めている。
新聞等でも報道されているように古河電工はOFSの買収を行うべく交渉を行っている。
本来ならばお金の支払いの話も終わっているはずであったが9月11日の同時テロの影響で延伸されている。
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5. |
古河電工によるLucent(OFS)の買収
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この買収の話は2001年2月頃にさかのぼる。
交渉の結果、7月14日に買収契約を結び、10月末にお金の支払いということになった。
買収金額は2.75B$である。
その後の景気低迷や同時テロ問題などがあり、買収金額についてはさらに交渉の余地があると考えている。
このような不況の時期に、なぜ買収を行うのかという意見もある。
古河電工としては、特許問題をはじめ、これまでの閉塞的状況を打破してマーケットシェアを拡大すること、
今後のIP分野への展開、技術戦略、などを考えると、むしろ好機であると判断し、買収を決断した。
ルーセントとコーニングとは光ファイバーについて競争相手でありながら、
特許の相互利用契約を行っている。
この契約を買収後にも生かすため、コーニングと良好な関係が築けるよう買収交渉を進めており、
うまくいっていると考えている。
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6. |
成否を決める要因
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日本企業による米国企業の大型買収は何れも成功していないといってよい状況にある。
日本人は米国ではマネージメントできないと考えた方がよい。
いかにしてよきアメリカ人のパートナーをさがし、経営に当たらせるのかが重要である。
現地人の登用によって市場のダウンワード、人員削減、設備投資の抑制、などの課題をクリアし、収益力を高めたい。
ルーセントには50〜60人の研究者がおり、これらの人を生かすため新たに研究所を設立する。
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7. |
新事業・新製品の生まれる環境
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新事業・新製品を生み出す条件として、
若さ、Venturism、IP(特許)が重要である。
特に特許については、中村修二さんが裁判で発明者の権利を主張する挑戦をしており、注目している。
勝ってほしいという気持であるが、このことは日本の今後にとって非常に重要なことと考えている。
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8. |
大学の挑戦
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大学の優位なことは、若い頭脳、グローバルな技術情報ネットワーク、である。
一方、欠如していることは、マーケット情報、特許の重要性の認識、ビジネスプラン、
金銭感覚、儲ける意欲、などである。
TLOの発足など大学も大きく変わろうとしているが、是非、頑張ってほしい。
その意味でも、中村修二さんの挑戦は注目に値する。
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(質疑、コメント)
(Q) |
1.5μmゼロ分散シフトファイバーについて失敗であったようなニュアンスで話がなされた。
しかし、現実にはWDMにも使われており、1.5μm帯の光技術を開拓した貢献度は非常に高かったと考えている。
このことを確認しておきたい。
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(A) |
研究がこれで終わってしまったことに問題がある。やや誇張的に話をしたが、指摘のとおりである。
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(2) |
「量子情報通信技術への挑戦」−量子テレポーテーション− (東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 古沢 明 助教授)
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(講演要旨)
量子情報通信(量子テレポーテーション)でやり取りする「量子情報」とは波動関数である。しかし波動関数はその測定によりその状態が乱されてしまうので、量子力学の根本原理の一つである不確定性原理により共役な2つの物理量(位置や運動量など)を同時に決めることはできない。それでは、どうしたら量子力学に矛盾せずにアリス(情報の送り手)が波動関数の完全な情報を得、かつその情報をボブ(情報の受け手)に送り、量子情報(波動関数)を伝送することができるのか?それには、今回説明する量子エンタグルメント(もつれ)の不思議な効果を使う。
量子テレポーテーションあるいは量子コンピュータでその「心臓」とも言うべきこの量子エンタングルメントはEPR相関(EPRペア)と呼ばれ、量子力学の黎明期にアインシュタインら(Einstein、Podolsky、Rosen)によってパラドックスとして提案された。このパラドックスは理論的にも実験的にも破られ、現在ではパラドックスではなくなっており、EPRペアは現実に存在する。EPR相関を持っている原子核ペアをそれぞれA、Bとして、Aの運動量を測定しPという値を得たとすると、Bの運動量は何もしなくても−Pになってしまう。量子テレポーテーションではこのEPRペアを用いて情報伝送を行う。
2次元(スピンのアップ・ダウン、偏光の縦・横など)の量子テレポーテーションは1993年にベネット(C. H. Bennett)によって提案され、「ベル測定」を用いて巧妙に不確定性原理(限界)をすり抜けて量子テレポーテーションを可能にしている。ここで、アリスは、ベル測定なるトリックを用いて、テレポートしたい量子と彼女が持っているEPRペアの片割れである量子Aを一緒にして4つのベル基底のうちどれであるかを明らかにする。測定が完了した瞬間、ボブの状態は確定し、あるベル基底の因子に収束する。ボブはアリスから「どのベル基底を測定した」という情報をもらい、それに基づいて適当なユニタリー変換を行い欲しかった情報を再生する。量子テレポーテーションにおいては、オリジナルは消滅してしまうので「量子FAX」は実現できない。
上述の2次元の量子テレポーテーションでは、完全なベル測定の方法は明らかになっておらず実験的には成功していない。これに対して連続量の共役物理量を用いた量子テレポーテーションでは、簡便な方法でベル測定が可能でありテレポーテーション実験が成功している。今まで思考実験であったものが現実の系で実験が行われおり、今後多くの優秀な実験家の参入が望まれる。
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(3) |
「半導体フォトニクスの挑戦」(東京大学工学系研究科電子工学専攻 中野 義昭 教授)
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(講演要旨)
IT不況下の光ネットワーク研究においては、トラフィックと伝送路容量の伸び、電気処理のノードの限界、全光処理の適用領域などの視点が重要である。「半導体フォトニクスの挑戦」としては、具体的に、共通基盤技術(量子効果光非線形材料、モノリシック光集積技術)、波長ルーティング用の第1世代フォトニックネットワークデバイス(半導体AWG、波長変換器、多波長/波長可変光源)、全光パケット処理用の第2世代フォトニックネットワークデバイス(全光スイッチ、光論理素子、光フリップフロップ)の3つが挙げられる。
共通基盤技術には、量子効果を用いた光非線形型材料の探索があり、多重量子井戸電界吸収光変調器、非対称三重結合量子井戸などが注目されている。また、半導体モノリシック光集積回路技術(能動素子/受動素子一括集積技術、基板大口径化技術)も重要である。
光ネットワークの基本デバイスとしては第1世代ルーティング方式においては、波長合分波器、波長変換器、多波長/波長可変光源、波長可変フィルタ、大規模マトリックス光スイッチ、広帯域光アンプ、第2世代全光パケット処理方式においては、超高速光スイッチングゲート素子、光論理素子・光フリップフロップ、光バッファ/フレームメモリ、高速マトリックス光スイッチが考えられる。
波長ルーティング用デバイスは各分野で積極的に研究が進められており、PLC型波長合分波器(AWG)は実用に供されている。全光パケット処理用デバイスは、これから研究が加速される分野であり、例えばSOAを用いたMZI型全光スイッチ集積回路は研究が進んでいる。いずれにしても、全光パケット処理に向けては、「光入出力の伝達関数が閾値特性を持った光デバイス」(光論理ゲート)と「ラッチ機能を持ったデバイス」(光フリップフロップ)を用いた、いわゆる「デジタルフォトニクス」の確立が不可欠である。次世代光情報通信ネットワークインフラの構築に向けて「半導体フォトニクスの挑戦」は続く。
(質疑、コメント) 特になし
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(4) |
「スーパーコンピュータの挑戦」(東京大学大学院情報理工学系研究科 小柳 義夫 教授)
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(講演要旨)
計算科学は理論・実験に続く第3の科学であり、1954年の再帰非平衡、1960年のアルダー遷移,1965年ソリトンの解析等、着実に進展してきた。プロセッサの速度は手回し計算機の0.01 FLOPS(1944)、ENIACの300 FLOPS、CRAY-1の160 MFLOPS、最近では数100 GFLOPSにも達しておりその発展は目覚しいものがある。アーキテクチャとしては、分散メモリ方並列計算機、対称型マルチプロセッサ、分散共有メモリ型などがある。過去10年間の歩みを考えると、プロセッサ速度は約1.8倍/年であり、毎年LINPACK(連立1次方程式をGaussの消去法で解く)を用いてTOP500をリストアップしている。
2006年のTOPの予想速度は100 TFLOPS、2010年は1 P(ペタ)FLOPSが予測されている。近いところでは、 NECが2002年に40 TFLOPS、10 TBメモリの地球シミュレータをリリース予定している。10年後のHPC(high performance computers)であるP(ペタ)FLOPS計算機においては、WDM接続(光交換)する路線、チップ内にロジックとメモリを同居させるPIM(Processor in Memory)路線、超伝導/PIM/光接続/ホログラム記憶などを組合わせるHTMT(Hybrid technology multi-thread)路線などいろいろな路線が考えられている。
21世紀のスーパーコンピュータの用途は、バイオ、連成系。20年後はなかなか予想できないが、エクサFLOPS(1018 FLOPS)程度と考えると、用途は第1原理計算、複雑系、大自由度密結合系、統合シミュレーションなどが考えられる。スーパーコンピュータの開発は市場原理だけでは進まない。国の戦略が必要。波及効果は大きいので国のレベルでプロジェクトを発足する必要がある。
(質疑、コメント)
(Q) |
10年後、光接続の可能性は?
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(A) |
昨年光コンピューティングの国際会議でコンベックスのスティーブ・ワラップスが詳細を提案している。
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(Q) |
地球シミュレータのプロセッサー間接続は?
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(A) |
メタル接続(100 mで同軸でGの帯域)。
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(Q) |
アルゴリズムの変質はどのように未来予測に盛り込まれるのか?
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(A) |
予測には量子計算は含まれていない。分子計算機の方が先かも知れない。
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(5) |
「ホロニック光情報ネットワークへの挑戦」
(大阪大学大学院工学系研究科 村上 孝三 教授)
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(講演要旨)
平成8年4月から平成13年3月まで行われた、未来開拓学術研究推進事業「ホロニック光情報ネットワーク」の研究状況、成果が報告された。
1980年代の高度情報化社会、90年代の高度情報通信社会、95年付近からのインターネット普及、2000年代に入ってからのIT革命と、これまで4波の情報化の動きが、いずれの場合もサービスとインフラのミスマッチが生じていた。ビジネス的にもトラフィック、コストの伸びに対して利益が追いついていない。広く言えば、ネットワーク技術、エンジニアリングの不足といえる。このような状況を打破する事を目的に、平成8年より13年まで未来開拓学術研究推進事業として「ホロニック光情報ネットワーク」の開発を行った。研究の目的は、「従来の電気通信の概念にとらわれることなく、光ネットワーク本来の特性を最大限に生かした、利用者主導の新しい情報ネットワークの概念を形成・実証する事」である。そのため、研究課題、組織を以下の三つに分けて研究を進めた。
1) |
「セキュリティと選択的伝達を結合した情報伝送システム」 代表:寺田阪大名誉教授、メンバ:阪大、京工繊大、東工大、東北大、
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2) |
「新波長変換・符号多重化」 代表小関上智大教授、メンバ:高知工大、中央大、上智大、玉川大、東京工科大、NEC
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3) |
「光情報ネットワークアーキテクテャとその素子技術」 代表:神谷東大名誉教授、メンバ:NTTデータ、東大
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その結果、以下のような成果が得られた
- 超楕円暗号の構成法、新規公開鍵暗号スキームの提唱等のセキュリティ技術
- 直接光強度スイッチCDMA、光CDMAによるラベルスイッチング
- 1psec幅パルスの波頭変換の実現等の導波型非線形光学デバイス技術
- 非線形ファイバスイッチによるWDM/TDM変換方式等の超高速機能素子新提案
- ネットワークの状況に応じて動作を制御する「柔らかいネットワーク」方式
- エージェント移動プラットフォームの形成
これらの成果をもとに、パーソナルナビゲーションネットワーク(PNP)と光トランスポートネットワーク(OTN)を階層化したホロニック情報ネットワークの第一次テストベッド(HOLON)を構築した。第二期では、これをさらに高度化する事を考えている。
なお、詳細については当日参加者に配布された報告書を参照されたい。
(質疑、コメント) 特になし。
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(6) |
「171光ネットワークシステム技術委員会の取り組み」
(上智大学理工学部 小関 健 教授)
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(講演要旨)
2000年10月から日本学術振興会産学協力委員会の第171委員会として光ネットワークシステム技術委員会が発足した。この委員会では、持続可能な社会システムとしてのネットワークという見地から光ネットワークの量的、質的発展を推進する事を目指している。
最近の技術の歴史を眺めると、80年代は日本の一人勝ち、90年代のIT/ネットワークでの米国の反撃という図式が言われるが、21世紀にはすべては不可分であり、単純な図式は描けない。欧米流の考え方が主流となっているが、もう一度人間中心の文明が見直される必要がある。日本は農耕文化からスタートして現在も特異な文明を形成しているという説がある。そのような特長を生かすことが、21世紀において日本が光ネットワーク技術のリーダとなる為の一つの道ではないか。
上記の考えを元に、委員会では以下の三つのアイテムに取り組みたいと考えている
1) |
持続可能な社会構築に向けたシステム解析 telecomute、e-learning等の新ビジネスモデルの数値的評価
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2) |
光ネットワーク技術の総点検から次に向けた指針の発掘: 検討タスクフォースでの推進テーマとしては究極の光伝送路、光アンプ、光ネットワークパラメータ測定等
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3) |
新パラダイムの探索 量子コンピュータ等
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(質疑、コメント) 特になし。
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(7) |
懇親会
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