近年,ネットワークの巨大化に伴い,ネットワーク上に存在する情報やサービスは増大し,多種多様化している.このような大規模ネットワークをユーザが効率よく利用する技術として,モバイルエージェントが注目されている.また,将来的に,高性能化する移動端末からのエージェントシステムの利用が考えられる.
筆者らの提案するマルチエージェントシステムAgent Gatewayでは,各ノードがエージェントの移動履歴等を管理することで,通信の位置透過性を実現している.エージェントの移動経路は端末が接続するノードを根ノード(AGR)とする木構造となり,ユーザ/エージェント間通信のメッセージはこの木に沿って送信される.しかし,メッセージはAGRを経由するため,端末がAGRから移動するとユーザ/エージェント間通信が不可能となり,エージェントの作業効率が低下する.
このような端末の移動に対処するため,モバイルIPの利用が考えられる.しかし,この場合,端末の移動がAgent Gatewayからは隠蔽される反面,メッセージが必ずAGRを経由するため,移動端末とAGRの物理的な距離に応じてトラヒック量が増加するという欠点がある.
そこで,端末の移動を可能にしつつ,移動に伴うトラヒック量の増加を抑える方式を提案する.この方式は,Agent Gatewayにおけるユーザ/エージェント間通信がエージェントの移動履歴を元にして行われる点に着目し,移動後の端末が接続するノードをAGRとするように,エージェントの移動履歴を部分的に修正するものである.これにより端末の移動後のユーザ/エージェント間通信における無駄なトラヒック量の増加を抑えられる.
最後に,シミュレーションによる性能評価により,本方式とモバイルIPを利用した方式を比較して,ユーザ/エージェント間通信におけるネットワーク上の総トラヒック量を抑えられることを確認した.