近年,移動端末の普及・高機能化に伴い,モバイルマルチメディアサービスの 利用への期待が高まっている.本研究室では有線網においてマルチメディアサー ビスを提供する,ホロニックネットワークという新たなネットワークアーキテ クチャを提案しているが,これまで端末の移動に伴う経路制御については考慮 されていなかった.
現在のモバイル通信ネットワークでは,端末が移動した場合,中継ノードでの 経路制御や移動元ノードから移動先ノードへのパケット転送によって,通信を 継続する.しかし,ホロニックネットワークではパケットのヘッダに書き込ま れた経路情報に従って全光でのスイッチングを行うのに対して,これらの方法 では光通信の高速性を損なうことになる.よって,移動先のノードまでの経路 を設定し直す必要があるが,送信ノードから経路全体を求め直すには時間がか かるという問題点がある.そこで,本研究では通信中経路を高速に切り替える 方式を提案する.
提案方式では,端末が移動する前に,移動する可能性のある全てのノードに対 して,予め経路を求める.これにより,移動した際に高速な経路切り替えを行 う.ここで,この経路がトラヒックの変動による帯域不足などで利用できなけ れば,移動前のノードからホップ数n以内で到達できるノード集合vの範囲 内で,代替経路を作成し,この経路と送信元から移動前ノードよりnホップ 戻ったノードまでの現経路を組み合わせる.これにより,トラヒック状況に合 わせた経路切り替えを行うことができる.
また提案方式による最悪時間計算量を算出した.その結果,提案方式の計算量 はO(|v|log|v|)となるが,vは十分小さい定数であるため, O(|v|log|v|)はO(1)となる.よって,提案方式は高速な経路切り替えを 行うといえる.さらにシミュレーションにより,端末の移動時における経路切 り替えに失敗する確率を求め,提案方式によって極めて低い値に抑えられるこ とを確認した.