近い将来の高品質なマルチメディアサービスを実現するため,基幹系ネットワークの超高速化,大容量化が求められている. 現在の光ネットワークの主要構成要素である交換部は複雑な電子回路で構成されており,高速,大容量化することは技術的に困難 である.そのため,光の高速性・広帯域性を最大限活用した波長分割多重 光ネットワークの実現が期待されている.
光ネットワーク内の伝送速度の高速化に伴い, これまで考慮する必要のなかった伝送系の物理特性の影響が相対的に大きくなる. 代表的な物理特性としては, 偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)がある. PMDによって光信号が劣化し,信号の識別が困難となる.そのため, PMDによる信号劣化を補償するために,PMD補償器の開発が進んでいる. PMD補償器はファイバ内の全波長を同時に補償可能であるが, コスト面からネットワーク内の全ファイバにPMD補償器を具備することは現実的ではない.そのため限られたPMD 補償器を効率的に利用する必要がある. また,光ネットワークのノード間には複数の光ファイバが敷設されることが一般的である. そのため,光ファイバによる物理特性の違いや補償器の有無を考慮したデータ伝送を行う必要 がある.
以上のような背景の下,本研究では,ノード間に複数のファイバがある光ネットワークにおいて, PMD補償器を効率的に利用することで,限られた数の補償器でPMD制約条件を満たした 経路選択法を提案する. 伝送経路を算出する際に,最小ホップとなる候補経路ごとに 予めPMDに起因する信号劣化によるロスを抑制する ファイバの組み合わせも決定する. このファイバ経路の算出においては, PMD制約を満たした上で,PMD補償器の利用 回数を最小にする組み合わせを求める. そして,データ伝送時において,算出した各候補経路の 中からランダムに伝送する 経路を選択する.
最後にシミュレーションを用いて評価を行い,提案方式によって, 送受信ペアの到着率が低い時に,ネットワーク全体のロスが9割改善できることを確認した.