近年,無線通信機能を有するセンサ端末が自律的にネットワークを構築する無線センサネットワーク(WSN: Wireless Sensor Network)への期待が高まっている.今後WSNでは,センサノード数の増加により,バッテリーの交換や充電がさらに困難になると予想されるため,各センサノードにかかる通信負荷を分散させ,WSN全体の寿命を延長することが重要となる.
また,WSNの実用化が進むにつれて,同じ領域内に異なるWSNが重なって構築される状況が増加している.このような場合,複数のWSNが互いに協調することにより,各ネットワークの寿命を延長できる可能性が考えられる.その1つとして,マルチチャネル通信機能を有する共有ノードを導入することで,WSN間の中継を行い負荷を分散させる方法が提案されている.しかし,この方法ではWSNの寿命を平均的に延長できるが,各WSNを比較すると寿命の延長に不公平性が存在していることがわかった.
そこで本稿では,複数WSN間の協調によって通信負荷を分散させる際の,各WSNの公平性の向上について検討する.不公平性の原因と考えられる共有ノードの利用率の差を小さくするため,各WSNが自身のネットワークにおいて,高負荷ノードを避けるような経路変更方式を提案する.これにより,共有ノードの利用率を変化させることができだけでなく,共有ノードを経由しない経路によって集中していた負荷を分散できる.また,単一ネットワーク内でも負荷分散を行うことで,共有ノードが保持するWSN毎の経路情報における偏りが小さくなり,適切な経由WSNの選択を行うことが可能となる.
最後に,計算機シミュレーションによる性能評価を行い,提案方式によって各ネットワークの公平性が向上することを確認した.