近年,ネットワークの高速化・巨大化に応じて, ネットワークの消費電力の増加が深刻な問題となっている. この問題に対して, 既存の研究ではネットワークの負荷に応じて必要最小限の消費電力で通信を行うことで 省電力化を図っている.
また一方で,ネットワークの発展により大容量ファイルのダウンロード要求も増加している. しかし,従来のIPネットワークで行われているベストエフォート型通信では, ダウンロード完了時間の予測が困難であるという問題がある. これに対し,ユーザが定めた制限時間までにダウンロードを完了させ, それが不可能な場合は棄却するモデルが提案されている. 既存の研究では,制限時間の直前で大きな帯域を割り当て, それ以前では最低限の帯域を割り当てることで, 要求の将来の完了による空き帯域の発生を考慮して呼損率を低減している. しかし,この方式では消費電力に関する評価は行われておらず, 要求数が少ない場合でも大量に消費電力を消費している可能性がある.
本稿では,制限時間付きファイル転送モデルにおける帯域や経路の融通性を利用し, ネットワーク全体の省電力化を実現する方式を提案する. 帯域制御方式では,要求に利用可能帯域をすべて割り当てることで同時に通信する要求数を減らし, 消費電力を削減する. また,ノード排反ではないがリンク排反である2つの要求を同じ時間に帯域割り当てすることで 共有するノードの消費電力を削減する. 経路選択方式では,帯域制御方式を生かしつつ,必要な空き帯域が確保できるような経路を選択する. この方式を用いることで,ネットワークの省電力化を実現することができる.
最後に,計算機シミュレーションによる性能評価を行い, 提案方式の有効性を確認した.