2005年度 修士学位論文

近年のネットワークのブロードバンド化に伴い，様々なネットワークアプリケー ションの利用が急増している．特にIP電話やビデオ会議等のリアルタイム系ア プリケーションの普及は著しく，近年これらをより高品質に利用するための Quality of Service（QoS）保証技術確立の必要性が叫ばれている． 本研究室でも，QoS保証を実現する一手段として，インターネットルータの出力 バッファ部において，パケットスケジューリングとパケット廃棄制御を連携さ せた処理を行うことにより，フロー毎の固定帯域配分を実現する制御機構 （QoSC : QoS Controller）の提案・実装が行われてきた．

しかし，現在実装完了済のQoSCでは，フロー毎のQoS保証を提供可能 であるが，固定帯域の配分という単一なQoS保証ポリシーの定義の みにとどまっており，既存の多くのQoS制御も含めて次のような課題が 残されている．まず，アプリケーション種別など個々のフロー属性に応じた 厳密な遅延保証や，状況に応じた帯域保証レートの変動等の処理ができず，帯 域保証フロー混在環境で瞬時的な輻輳が発生した場合，Delay Sensitiveなアプ リケーションが大きな遅延を被ったり，Packet Loss Sensitiveなアプリケーショ ンのロス率が増大する等の問題が起こり得る．また，実装QoSCも 含めフロー対応のQoS制御機構では帯域保証の最低粒度に限界を 有するものが存在し，特に，音声等の狭帯域フローが多数存在する場合，過 剰な帯域配分が累積され，資源利用効率の低下を招く恐れがあ る．

そこで，本研究では上記の課題に対し，既存QoSCをベースとして適用可 能なアプリケーションの範囲を拡大し，より高度なQoSを提供可能な機構を提 案する．具体的には，帯域保証クラス内でさらなるクラス定義の細分化（``マ ルチクラス化''）を行い，そのクラス拡張を実現するためのスケジューリング 方式と廃棄制御ポリシーを提案する．また，保証可能な帯域範囲を拡大し，狭 帯域フローの遅延保証をサポートするための新たなパケット廃棄方式を提案す る．提案方式をハードウェア記述言語により実装し，論理合成を行っ た結果，最大スループットが2.56\,[Gbps]を達成可能であることを確認した． また，拡張QoSCをFPGAに実装し，FPGA搭載スイッチにより様々な環境で動作検 証を行い，本提案方式のマルチクラス化，資源利用の効率化に関する有効性を 確認した．