2012年度 修士学位論文

高速ネットワークの普及と，エンコード等の動画に関する技術発達に伴い，ネットワーク を介した動画配信サービスに関する研究が盛んに行われている．中でも，多数の視聴者に 生中継の映像を提供するライブストリーミングサービスは将来重要な動画配信サービス として位置付けられている．

動画配信サービスとして，動画サーバから個々のユーザの端末に直接配信するクライア ント・サーバ型が一般的である．しかしながら，実装が容易な一方で，サーバ付近のネッ トワークへの負荷が高くなり，特に多数のユーザに配信する場合，大きな問題となる．そ こで，各ユーザ端末でデータを複製して中継を行いながら配信を行うアプリケーション レベルマルチキャスト(ALM) 技術への研究が活発化してきている．中でも，配信遅延を 低減しつつ，個々のユーザ端末への中継負荷を公平に分散させることから，公平性ある ALM として複数配信木方式が期待される．ALM は，オーバーレイで配信ネットワーク が構築されるため，IP ネットワークの観点からは通信資源を冗長に浪費している場合が 多い．また，多くの場合ALM は構造化されたネットワークを構築するため，ノードの頻 繁な参加離脱や故障が発生すると，ネットワークがうまく構築できないなどの欠点も有す る．特に，短期的に大規模な離脱が発生すると，離脱しないノードも多大な影響を被る．

以上の背景の下，これらの欠点を補い，複数配信木方式の利点を併せ持つ，重畳クラス タ木型配信システムを提案する．重畳クラスタ木は，クラスタリングと複数配信木型の両 方の利点を活かすネットワークである．ノードの離脱耐性を高めるため，配信ネットワー クを個々のクラスタに分割する．クラスタから選出された複数のノードが動画ストリーム を中継し，他クラスタやクラスタ内のノードにストリームを拡散させる．また，クラスタ リングの際には，IP ネットワーク上の距離を考慮した局所的なネットワークを構築する．

提案方式により構成されたネットワークを計算機シミュレーションによって評価し，従 来の複数配信木型に比べ，参加離脱の頻度が大きい時や大規模離脱が発生する場合におい ても離脱耐性が大きく向上することを確認した．また，ネットワーク上で発生する遅延や 消費資源を従来より低減可能であることを確認した．