渡辺研究室 大阪大学大学院情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻 インテリジェントネットワーキング講座(工学部 電子情報工学科 情報通信工学科目)

2012年度 卒業研究論文

In-network Cacheを利用したマルチキャストシステムの設計及び実装に関する研究
川住 涼

ネットワークの高速・大容量化に伴い,ライブストリーミングのような動画配信サービスが普及してきている.このような複数の端末に対して一括したデータの送信が必要となるサービスの実現には,マルチキャストの形態が効果的である.既存のマルチキャストシステムには,いずれもインターネットの利用を前提としたベストエフォート型配信のため信頼性が低いという問題点がある.一方で,OpenFlowを用いたSDN(Software Defined Network)や,In-network Cacheの利用といった従来のネットワークの枠組みに囚われない新しい試みが行われてきている.

マルチキャスト配信時における動画品質を向上させる手法として,パケット再送による方式や,FEC(Forward Error Correction)がこれまでに提案されている.既存方式の1つであるパケット再送は,再送による遅延や配信ノードの負荷が問題にならない場合には他の方式よりも優れた受信率の改善が期待できる.しかしながら,再送を行うため,遅延時間の増大や,端末毎に異なるパケットを個々に再送する必要があるなど,解決すべき課題が残されている.

以上のような背景の下,本研究では,利用特性に基づいてネットワーク内へキャッシュデータを配置し,それらの再送を行うマルチキャスト型配信システムを提案する.具体的には,視聴者付近のスイッチにキャッシュを配置し,置換時に古いキャッシュを上流のスイッチに転送する.これにより,損失パケットの再送による遅延を最小限に抑えつつ,古いキャッシュデータを上流のスイッチに保管することによりタイムシフト機能を実現する.また,OpenFlowのプログラマブルにネットワーク制御が行える特徴を活かし,トポロジや各スイッチにおけるキャッシュ状況の管理をOpenFlow Controllerで一括して行う.これにより,ネットワークレベルでのスムーズな再送経路の設定が可能となる.

OpenFlowを用いて本提案方式を実現するマルチキャストシステムを実装し,エミュレーションにより評価を行った.評価の結果,キャッシュを用いない方式やon-path caching方式に比べ,パケットの再送に要する平均時間を短縮出来ていることを確認した.

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