渡辺研究室 大阪大学大学院情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻 インテリジェントネットワーキング講座(工学部 電子情報工学科 情報通信工学科目)

2014年度 卒業研究論文

マルチパス環境に適したエンコード構造を用いた多視点動画伝送手法
大友 伊織

三次元映像,自由視点映像などの次世代の映像技術を支える要素技術として,多視点動 画(マルチビュービデオ)伝送が注目されている.ある被写体を複数のカメラを利用して 異なる位置から同時に撮影した映像を用いることで臨場感あふれる映像をユーザに提供す るものであるが,複数のカメラ映像を同時に扱うため,従来のシングルビュービデオと比 較してデータサイズが非常に大きくなる.そのため,データ量削減のためのエンコードに 焦点を当てた研究が進められている.マルチビュービデオでは,単一視点のカメラにおけ る各画像フレームの時間相関だけでなく,同一時刻の異なるカメラ間の空間的相関情報を 用いてエンコードすることにより,大幅な情報の削減が可能である.しかしながら,相関 情報を利用してデータ量を削減するにつれて,伝送中に映像フレームの一部が損失した場 合,同時に多くの映像を正常に再生できなくなる.これは,映像品質の劣化や再生の一時 停止などを引き起こし,ユーザの体感に影響を及ぼす.データ量の増加と映像品質の劣化 や再生中の一時停止に対して同時に対処する手法が求められる.

以上の背景の下,本研究では,マルチビュービデオにおけるデータ量の増加を抑えると ともに,伝送中のデータ損失によって発生する映像品質劣化ならびに映像再生の一時停止 を抑制する多視点動画伝送手法を提案する.映像品質劣化ならびに映像再生の一時停止を 抑制するため,提案方式では映像データを複数の独立した伝送路(パス)を用いてユーザ に伝送する.このとき,映像データをパス数に合わせた分割的エンコード構造を用いるこ とにより,ある映像フレームの伝送損失によって引き起こされる一時停止の範囲を狭める. また,エンコード時にカメラ間の相関情報を用いることで,データ量の増加を抑制する.

最後に,計算機シミュレーションによる性能評価を用いて,提案手法の有効性を明らか にする.提案方式は標準化方式H.264/AVC MVC と比較したとき,伝送中の損失が発生す る環境下において,映像品質を表すPSNR を5dB 改善可能であり,このことから映像品質 を維持できていることが明らかになった.また,マルチビュービデオにおける伝送中の損 失が原因となる再生中の映像の途切れに対応した既存手法と比較して,提案手法は同映像 品質と再生中の映像の途切れの抑制を達成するとともに送信データ量を約8%低く抑えるこ とが可能であることが分かった.

PDFファイル(研究室内からのみアクセス可能)
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